ベン・ボーラー IPO

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StockXが変革をもたらしたベン・ボーラーIPOとは

表題の通り、ベン・ボーラーのIPO「Ben Baller Did The Chain」でStockXは業界に変革をもたらしました。以下では、当社初の真のIPOがもたらしたインパクトの大きさをご紹介していきます。

表題の通り、ベン・ボーラーのIPO「Ben Baller Did The Chain」でStockXは業界に変革をもたらしました。以下では、当社初の真のIPOがもたらしたインパクトの大きさをご紹介していきます。

ベンボーラー IPO

Editor’s Note — こちらの記事は、「Ben Baller Did The Chain」IPOの全貌を解説しています。長文で掘り下げた内容になっていますが、簡単にまとめると次の通り。3日間のIPOでサンダル800足に対し、10,000件以上の入札があり、匿名での競り下げ方式を採用した独特な価格設定方法に基づき、ブラックのサンダルは最低落札額平均の181ドル、レッドは260ドルで販売されました。IPOはすでに終了していますが、「Ben Baller Did The Chain」に出品されたサンダルは、他の商品と同様にStockXで売買できます。もっと詳しく知りたい方は、ゆっくりとコーヒーでも飲みながら続きをお読みください。

Ben Baller Did The Chain とは

StockXは先週、「Ben Baller Did The Chain IPO」でeコマースの歴史を塗り替えました。ベン・ボーラーは世界的に知られたセレブ御用達ジュエラーで、数え切れないほどの曲に登場する文化的アイコンでもあります。とりわけA$AP Ferg(エイサップ・ファーグ)の2017年ヒット曲、「Plain Jane」にある 「Ferg is the name. Ben Baller did the chain.」というフレーズで、ヒップホップ界における名を不動のものにしました。このフレーズはツイッターやスナップチャット、インスタグラムのコメントに使われ、とうとう最後にはサンダルに刻まれました。

IPOはベンの誕生日のために特別に作られたブラックのサンダルから始まりました。Supra(スプラ)創始者による新しいシューズブランド、Straye(ストレイ)がこの特別なイベントのために100足製作することにし、ベンはそのサンダルを個人的に家族や友人たちに配っただけでした。そのサンダルを気に入った友人たちからの反響がとても大きかったため、新色のレッドを加えて大々的に発売することにし、そこでStockXが登場します。

これは従来、株や債権の値付けに使われてきた匿名での競り下げ方式を通じて、コンシューマー製品が発売されたのは初の機会となりました。このように独特なやり方でサンダルをリリースすることで、当社の利用者や市場全体が購入したいと思える価格を設定できるようになりました。

IPO Basics IPOの基礎知識

その結果をお伝えする前に、この独特な匿名での競り下げ方式の実際の仕組みをもう一度見てみよう。StockXの利用者はIPOのページから、対象商品のカラーやサイズを選んで、購入希望額で入札しました。これらの入札は完全に匿名で、他の利用者の入札を見ることはできません。見えるのは対象商品のページにある入札の合計額だけです。IPOが終了すると、商品の在庫数と同数の入札が上から順に選ばれ、当選者が決まります。例えば、米国サイズ9のブラックが20点ある場合、ブラック・サイズ9への入札額上位20件が商品を落札できます。

ただし、当選者が支払う金額は一律同じで、その価格を「最低落札額」と言います。出品数にかかわらず、当選したなかで最も低い入札額が最低落札額となります。上記の例だと、上から20番目の入札額が最低落札額となります。つまり、もし最高入札額の1000ドルで入札したとしても、最低落札額が300ドルであれば、わずか300ドルでサンダルを購入することができるのです。  

「Ben Baller Did The Chain」IPO開始3日後には、出品された800点のサンダルに対し10439件の入札があり、入札額のレンジは50ドル〜100万ドル超となりました。StockXの企業理念の一つが「透明性」であることから、このIPOに当選した入札額をすべて開示するチャートまで作成しました。膨大なチャートのため、心してご覧ください。(サイズ・カラー別の入札額をすべてご覧になるには、こちら。)ベンボーラー IPO

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商品によっては、かなり高額で入札されていることをお気づきでしょう。例えば、米国サイズ5のブラックには、100万ドルの入札があります。でも、入札者が本当に100万ドルでの購入を希望していたとは思えません。そうではなく、少々リスクはともなうものの、何があってもサンダルを落札できる戦略を取っているのです。他の入札者は、これよりかなり低い金額で入札すると想定していたのでしょう。100万ドルで入札したことで商品の落札が保証され、最終的にそれよりもかなり安い最低落札額で購入することができました。この戦略にリスクがつきまとうのは、他の大部分の入札者が同じ方法を取らないことにかかっているからです。42人以上の入札者が米国サイズ5のブラックに100万ドルで入札していたなら、7桁の最低落札額を支払うはめになっていたことでしょう。しかし、結果的にはそうならなかったので戦略は当たったことになります。

最低落札額の見定め

しかしIPOの本当の面白さは、個別の最低落札額を見るところにあります。

あらゆる市場価格モデルと同じく、IPOの最低落札額はをけん引しているのは需要と供給という2つの基本的な力です。まずは、供給についてお話ししましょう。当社はサンダルを作ったベン・バーラーとストレイと協力して、意図的にレッドの供給を少なくすることで希少価値を持たせました。さらにサイズごとの供給数は、旧来のシューズ小売の割り当てに応じて変化をつけました。つまり、米国サイズ9〜12のような人気サイズの供給を増やし、5や13は減らしました。下記のチャートでは、サイズやカラー別の正確な供給数を詳しく掲載しています。

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レッドの供給数が少なめになっていすが、需要が大幅に下回ると考えられていたわけではありません。2色のサンダルの類似点から、私たちは需要、すなわち入札数は各色で似たり寄ったりになると予想し、その通りになりました。下記のチャートでは、グレー部分が需要(入札数)を表し、左側の縦軸が対応しています。緑の棒グラフが供給(出品数)で、右側の縦軸が対応しています

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ご覧の通り、サイズによって需要は大きく異なりますが(人気の米国サイズ9・10には目立って入札が集中しています)、全体の需要はカラーでほとんど違いがありませんでした。例えば、レッドのサイズ10への入札は1200件足らず、ブラックのサイズ10は1400件強でした。

レッドの供給が比較的少ないことを考えると、供給に対する需要の割合はブラックよりもレッドの方がはるかに高いことが分かります。ブラックのサイズ10に関しては、100点に対して1400件の入札があり、落札率は14分の1です。一方で、レッドのサイズ10を見てみると、わずか50点のサンダルに1200件の入札と、落札率は24分の1です。下記のチャートでは、そのような確率の差をご確認いただけます。

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これらの割合は何を示しているのでしょう?一言で言うと人気度です。結局は需要と供給の相違によって流行りが生まれます。需要が供給を上回るほど割合は小さくなり、人気が高まります。ここで最低落札額の出番となります。

ご承知のように、商品の価格はその人気に左右されます。人気があるほど価格は高くなります。そのためて、商品ごとの最低落札額が人気度と呼応しているのは当然です。下記のチャートは、サイズとカラー別の最低落札額を示しています。

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最低落札額(出品数に応じた最も低い落札価格)は、下は75ドルから上は350ドルまで、大きくばらけています。そして、この値付けの幅は、人気度と呼応しています。そのため最低落札額は、総じてレッドの方がブラックより高くなっています。そして、供給に対する需要の割合が最も高いサンダル(米国サイズ13のレッド)で、最低落札額も最高額になっています。

 

最後にこのIPOで注目すべき点として、落札額のほとんどが最低落札額を大幅に上回っていたことがあります。そのため、どの入札者のほとんどは、入札した額より小さい最低落札額を喜んで支払いました。。下記のチャートは、それを裏づけるものです。

ベンボーラー IPO

上記のチャートは、最低落札額を上回っていた落札額のパーセンテージを示しています。大半の商品で、当選者のうち90%以上が、実際の購入額よりも高い価格で入札していました。米国サイズ13のレッドが唯一の例外で、これはたまたま最低落札額と同額(350ドル)の入札者が複数存在したからです。その場合ですら、落札者の73%は最低落札額よりも高い値段をつけていました。

次の展開は?

IPO終了からしばらく経てば、レッド、ブラックどちらのサンダルもStockXのマーケットプレイスで販売できるようになるので、状況はさらに面白くなるでしょう。どちらのカラーも、すでに最低落札額の2倍以上で出品が出始めています(2019年1月当時)。歴史に学ぶなら、価格は最低落札額を大きく上回ったままになるはずです。最終的に支払った金額以上の値をつけた落札者がたくさんいたのですから

ベンボーラー IPO

ですが本当に面白いのは、IPOがシューズリリースやeコマース全般の将来にとって持つ意味です。繰り返しになりますが、「Ben Baller Did The Chain」のサンダルは、他のどこでも販売されていません。小売価格の設定のない、StockX限定発売です。そして、この価格設定モデルを旧来の小売モデルと比較すると、疑いようのない明らかなメリットがあります。

ベンがこのサンダルを従来の小売店で発売していたとしたら、何が起きていたか想像してみてください。物事はまったく違っていたことでしょう。同数のレッドのサンダルを小売店に持っていき、小売市場を参考に70ドル前後で価格を設定したとします。70ドルはリーズナブルと言えるでしょう。ところが、275点が小売価格の70ドルで発売され、リセール市場価格が400ドルまで行ったとしたら、どうなるでしょうか。とてつもない混乱が起きます。店頭販売だったとしたら、店の前で寝泊まりする人が現れ、混雑の問題も発生していたかもしれません。オンライン発売なら、サイトが落ちたり、ボットが商品をさらって行った可能性があります(抽選でも、手に入れられる可能性はほぼゼロだったことでしょう)。

ところが当社のIPOモデルでは、このような事態は一切生じませんでした。かわりに、全員に公正かつ平等に希望額を提示できる機会が与えられました。さらには、落札者の90%以上が購入希望額以下で商品を手にすることができました。そして、それでもリセール市場価格を大幅に下回るため、売りたい人には大きなチャンスが生まれます。騒動もボットもなく、裏口販売やサイトのダウンもなく、むしろIPO大々的メディアで取り上げられました。

最初から商品の価格設定を市場にゆだねることで、当社は発売から販売までの全体の流れを根本から合理化しました。当社は人気の商品の発売と価格設定をするのに、これこそが根本的に最善の方法だと考えています。値段を決めるのはStockXではなく、お客様です。それがリセール市場のあり方で、当社は小売市場もまた、このように機能すべきだと考えています。