ライフスタイル - 3 / 11, 2021

エアマックス95の遺志を継ぐスニーカー集 Part.1

By Nobukazu Kishi

By Nobukazu Kishi

今を遡ること四半世紀。それまでミッドソールの後足部に限定されていたビジブルエアを初めて前足部に搭載した革新的なエアマックスが登場する。Fall 95にリリースされたエアマックス95は、ナイキエアが理想に掲げた、ミッドソール全体をエアバッグで占有する究極のエアクッショニングシステムへの第一歩を踏み出したのである。その開発段階ではミッドソールの前後にマックスエアを配置したことで「エアトータルマックス」と呼称し、エアマックスの進化の系譜が新たなフェーズに突入したことを示唆していた。

この歴史的快挙に相応しい特別なエクステリアを要求されたのがデザイナーのセルジオ・ロザーノだった。彼は人体の筋肉や骨格をモチーフに、アッパー側面に層を成す立体的なオーバーレイやシューレースと連動してアッパー全体に張り巡らせたパイピングテープによって筋繊維や肋骨の構造を表現。そうしてミッドソールの前後に及んだビジブルエアが際立つよう漆黒のフォームにネオンイエローのエアバッグを配色し、アッパー側面にグレーのグラデーションを描くことでエアマックス95のファーストカラー「ネオン」が誕生した。その偉業は、90年代後半のハイテクスニーカーブームを牽引したエアマックス95の実績に照らす迄もないが、一方ではプレミア価格の高騰からエアマックス狩りや偽造品の流出など負の遺産をもたらしたのも事実だ。

本稿では、グレーのグラデーションにネオンイエローを配色したエアマックス95の独創的なカラーウェイが、ナイキにとって如何なる意味を持つのか-それを探るべく、革新的なイノベーションが実現するたびに「ネオン」に彩られたエポックメイキングがリリースされる現象を踏まえ、それらの厖大な履歴を前後編に分けて検証する。まずは、オリジナルの降臨からコンセプトモデルの派生、ハイブリッドの全盛期へと続き、プロトタイプ及びウルトラジャカードの登場までをフォローする前編である。

 

NIKE AIR MAX 95 (1995)

エアマックス95

気圧の異なる2種類のチャンバーで構成されたデュアルプッレシャーエアとシリーズ初のビジブルエアを前足部に搭載した初代エアトータルマックスことエアマックス95、そのファーストカラー通称”ネオン”。インラインでは異例のブラックソールにネオンイエローのマックスエアが映える仕様。グレーのグラデーションとネオンイエローが織り成す究極のカラーウェイはこのモデルを起点にテクニカルなバリエーションを拡散する。

 

NIKE AIR MAX 95 360 (2006)

エアマックス95 360

ナイキエアの理想を極めたエアマックス360の完成を記念し、360°ビジブルエア搭載のツーリングを歴代シリーズと融合した”One Time Only”企画より、エアマックス95のハイブリッドモデル。後足部を支えるケージ付きながら360°ビジブルエアに最接近したクッショニングテクノロジーは着実に進歩を遂げ、まもなく訪れるマックスエアのゴールまであと少し。ハイブリッドモデルの評判は芳しくない。

 

NIKE WMNS AIR MAX 95 ZEN VENTI (2007)

エアマックス ロングブーツ

エアマックス95をベースに製作された編み上げのロングブーツ。ファーストカラーの”ネオン”をまとい、アッパーサイドのグラデーションが膝丈に達したシャフト、ネオンイエローのシューレースパイプが等間隔で並び、シュータンにはY字のレースステイが付属する。ヒールのみビジブルエアを搭載したソールユニットが採用されたハイブリッド全盛期の徒花的なモデル。

 

NIKE AIR FORCE 1 SUPREME MAX AIR (2008)

エアフォース エアマックス

ナイキを代表するアイコニックなバスケットボールシューズ、エアフォース1をベースにビジブルエア搭載の一風変わったツーリングを装着したハイブリッドモデル。ミッドソールのブラックから始まり、チャコール、グレー、ライトグレーへとグラデーションするアッパーにシューレースとアウトソールのネオンイエローを組み合わせたカラーウェイは、エアマックス95へのオマージュ。

 

NIKE COURT FORCE HIGH BASIC (2008)

ナイキ コートフォース

1987年発売のクラシックなバスケットボールシューズ、コートフォースはFORCEシリーズのチームモデルとして展開されたバリエーションの一つであり、また当時ストリートにおいてはスケートボーダーに愛用された歴史的背景を持つ。その後、90年代にはヴィンテージ市場でも人気を集め、00年代を迎えて復刻版がリリース。エアマックス95のイエローグラデをオマージュしたリミテッドエディション。

 

NIKE AIR MAX 95+ BB (2012)

エアマックス95 BB

メッシュとレザーを熱圧着により一体化するハイパーフューズテクノロジーを駆使したアッパーに360°ビジブルエア搭載のツーリングを組み合わせたハイブリッドモデル。オーバーレイの切り替えをグレーの色調で表現し、ネオンイエローの帯を重ねたエアマックス95+BBは、近未来的なデザイン志向が強く、オリジナルのエッセンスはほぼ蒸発したと言っていいだろう。

 

NIKE AIR MAX 95 NO-SEW (2012)

エアマックス95 ノーソー

エアマックス95のアッパーサイドがグラデーションするオーバーレイの継ぎ目を糸で縫製するステッチでなく熱圧着によるノーソーテクノロジーを導入したリミテッドエディション。シームレスの洗練されたアッパー処理を除けば、ほぼオリジナルと遜色ない先進テクノロジー生まれのエアマックス95だが、フラットな印象があるのはやむなし。

 

NIKE AIR MAX 95 EM (2013)

エアマックス95 EM

アッパーサイドをチャコールグレーからホワイトへグラデーションするオーバーレイを一対のテキスタイルで仕上げたエアマックス95のエンジニアードメッシュ仕様。通気性や耐久性など異なる性質のテキスタイルを一体化するエンジニアードメッシュというテクノロジーが再びエアマックス95の洗練されたカラーウェイを際立たせる。

 

NIKE AIR MAX 95 DYN FW (2013)

エアマックス95

アッパーサイドからソールを回って反対側へと繋がるダイナミックフライワイヤー。グレーのグラデーションを背景にこのワイヤーをネオンイエローで際立たせシューレースと連動した先進フィットテクノロジー。ツーリングには第2世代の360マックスエアを搭載したハイブリッドモデル。テクノロジーの見える化が顕著に。

 

NIKE AIR MAX 95 PROTOTYPE (2013)

エアマックス95 プロトタイプ

ナイキのブランド設立40周年にあたり、mita-sneakersの国井栄之氏が提案したエアマックス95は、過去にBoon別冊でナイキ本社のデザイナー取材を敢行した際に明かされたプロトタイプの復刻版。セルジオのデスクの端に見切れていた開発途中の試作品に注目、製品版と異なるディテールをあえて再現したプロトタイプは黒いシュータンが際立っていた。東京のマニアックなスニーカーカルチャーを象徴するコラボモデル。

 

NIKE AIR MAX 95 ULTRA JAQUARD (2015)

エアマックス ジャカード

人体の筋肉や骨格をモチーフに創作されたエアマックス95の正統なアップデイト版。新たに人体の筋繊維をイメージしたジャカード織りのアッパーにブラックとネオンイエローで配色されたダイナミックフライワイヤーの進化版としてマグワイヤー、ブラックソールに埋め込まれたネオンイエローのマックスエアを採用。ジャカード生地で縫製を減らし従来比40%の軽量化に成功した新世代のエアマックス95。