スニーカーショップ

ライフスタイル - 10 / 1, 2020

日本におけるスニーカーショップ別注の歴代10傑

By Nobukazu Kishi

By Nobukazu Kishi

かつて日本のスニーカーショップでは、スポーツメーカー各社が国内用に供給するインラインモデルの仕入れと日本未発売モデルを海外から買い付けることで独自のアイデンティティを表現していた。90年代半ば以降、ハイテクスニーカーブームと共に爆発的に数を増やした小規模なスニーカーショップはその終焉を機に淘汰され、逆に難局を乗り越えた東京・原宿「atmos」や上野「mita sneakers」といったショップには潮目の変化が訪れる。00年代初頭のこと。

ナイキはハイテクスニーカーブームを牽引しつつ、その勢いが鈍化しても尚テクノロジーの研究・開発に積極的に取り組み、90年代末期にはアルファプロジェクトを発表した。また同じ頃、待望の復刻を遂げたダンクでも”CO.JP”名義の日本限定モデルを展開。その取り扱い店舗に名を連ねたのがatmosやmita sneakersだった。

そして2001年、遂にカラー別注という形で実現したナイキとスニーカーショップのコラボレーションは、その後のスニーカー市場でより一層注目度の高いキーワードへと成長する。ただ実は、メーカーとショップが協業するコラボレーション自体は過去に例が無かったわけではない。例えば1996年、吉祥寺の老舗スニーカーショップ「テクテック」が別注したプーマ・ディスクブレイズレザーはヒットを記録。アメリカ市場ではそれ以前より「FOOTLOCKER」や「CHAMPS」といった米国最大手のスポーツショップで限定カラーを発売する等、常に話題を集めていた。

00年代初頭に始まったナイキとスニーカーショップのコラボレーションが既存のプロジェクトより優れていたとすれば、それぞれの商品開発にショップごとの独自性を発揮していたことだろう。スポーツメーカーにとっては斬新なアイデアが得られればこそコラボレーションする価値があり、スニーカーショップでも独自性をデザインに反映してこそのコラボレーションなのである。このトレンドが新しいスニーカーカルチャーとして定着し、メーカーの垣根を越えて拡がっていくのにそれほど時間は掛からなかった。

ナイキに次いで、ニューバランスやアシックスでもコラボレーションの輪は拡がり、スポーツブランドとスニーカーショップだけに限らずアパレルブランドを加えたトリプルコラボレーション等、その形態はマルチに進化を遂げた。特にmita sneakersはスポーツメーカー各社とアパレルブランドを繋ぐハブ的な役割を率先して引き受け、数々のエポックメイキングを手掛けた実績では群を抜いている。

日本が誇るスニーカーショップの主導するコラボレーションにフォーカスし、その発想の豊かさや商品の完成度といった項目を勘案した結果として、歴代ベスト10をここに発表する。

 

NIKE AIR FORCE 1 LOW / DUNK LOW ATMOS (2001)

ナイキ atmos

日本限定で展開された裏ダンクに次いで話題を集めたリミテッドエディションがこちら、atmos共同製作のエアフォース1及びダンクのエクスクルーシブカラー。ナイキが日本のスニーカーショップをパートナーに別注カラーを製作した記念すべき第1弾。atmos代表の本明氏曰く「個人的に大好きなブルドッグをマスコットにしているジョージタウン大学のチームカラーをモチーフに、紺とグレーを配色したエアフォース1とその配置を逆転した裏ダンクというコンセプト」。新たな世紀を迎えてストリートカルチャーへの接近を加速したナイキがスニーカーショップとのコラボレーションに踏み切った歴史的なエポックメイキングである。

 

NIKE AIR MAX 1 ATMOS “VIOTECH” (2002)

エアマックス バイオテック

ナイキエアマックスのコラボレーションにおいて実績を重ねてきたatmos別注カラーの最高傑作と呼ばれているのが通称”バイオテック”である。その特徴は、エアマックスらしからぬブラウン系のグラデーションにパープルの挿し色を利かせたカラーパレット。初代エアマックスの伝統的なカラーバランスを踏襲しつつ斬新なカラーウェイを実現したバイオテックが成功を収めたことで、その後のエアマックスプロバイダーとしてのブランディングに繋がったのは言う迄もない。atmosが00年代初頭に手掛けた記念碑的な一足である。

 

NIKE AIR FORCE 1 LOW MITA SNEAKERS “温故知新” (2004)

ナイキの伝統的なフォルムを現代に受け継ぐバスケットボールシューズ、エアフォース1のカスタムに対して「温故知新」をコンセプトに掲げたmita sneakers別注。「昔の事柄を訪ねて、新しい知識を得る」を体現すべく、80、90、00年代に遡り、それぞれの時代を象徴するマテリアルとしてオーストリッチの型押しレザーやヌバックやエナメルをアッパーに切り替えることで、エアフォース1の歴史を表現したローカット仕様。どこか侘び寂びの精神性を配色に感じさせるジャポニズムのカスタムビルトはmita sneakersの独壇場だ。

 

NIKE AIR FORCE 1 LOW UENO CITY ATTACK “SAKURA” (2005)

上野シティアタックと題したエアフォース1は、クリエイティブディレクターの国井栄之氏が率いるmita sneakers別注のリミテッドエディション。桜の名所として知られる上野公園にちなんでアッパーの前足部に桜の花びらを刻印したのがレーザーで、当時ナイキの先進テクノロジーとして注目されていた。ヒール側面には”UENO”の刺繍ロゴをあしらい、ゴールドのシューレースチャームを付属。これが専用の木箱に収納されて200足限定でリリースされたと云う。その希少性に伴うプレミア感は推して知るべし。

 

NIKE TRAINER DUNK HIGH MITA SNEAKERS “森羅万象” (2007)

森羅万象

ナイキが様々なカテゴリーで実践してきたテクノロジーを寄せ集め、新たな形態へと昇華するハイブリッドコンセプトに基づき開発されたトレーナーダンク。バスケットボールシューズの定番ながらスケーターにも愛用されたダンクとクロストレーニングの開祖であるエアトレーナー1のエッセンスを交配し、ナイキフリーの進歩的なソールユニットを装着した三つ巴のハイブリッド。mita sneakers別注では「森羅万象」をテーマに、オーストリッチ・鳥類、エレファント・哺乳類、スティングレー・魚類、スネーク・爬虫類の型押しレザーの切り替えで天地にあまねく存在する万物を表現し、スニーカー史のアイコニックな配色で彩られたリミテッドエディション。

 

NIKE AIR MAX 95 MITA SNEAKERS “PROTOTYPE” (2013)

エアマックス プロトタイプ

クリエイティブディレクターの国井氏がかつて雑誌に掲載されたナイキ本社取材のインタビュー記事を手掛かりに、エアマックス95の試作サンプルを再現したmita sneakers別注。デザイナーのセルジオ・ロザーノが人体の骨格や筋肉をモチーフにデザインしたエアマックス95は当初シュータンを黒で配色していたが、製品版では白に変更され発売された。この事実を97年当時の雑誌『Boon』で認識した国井氏はいつかプロトタイプを製品化したいという初心貫徹、見事に夢を叶えたのである。シュータンとリフレクターをブラックアウトした漆黒のプロトタイプは、スニーカー現代史の重要な証人として評価されるべき一足だろう。

 

NIKE AIR MAX 1 ATMOS “ELEPHANT” / AIR MAX 1 PREMIUM RETRO ATOMS (2007 / 2017)

エアマックス atomos

ナイキよりアニマルパックと銘打って2006~07年に発売されたリミテッドエディションの一つにatmos別注のエアマックス1があった。エアジョーダン3で採用されたエレファント柄のテキスタイルをマッドガードと履き口周辺にコンバートしたatmos別注は、発売当初その奇抜な型押しがキワモノ扱いされ、在庫を消化するまで多少の時間を要したと云う。それから10年……ナイキが復刻を希望するシューズについてオンライン投票を呼び掛けた2017年のキャンペーンで第1位に輝いたのがこのモデル。時代のニーズを先取り過ぎたエレファント柄のエアマックス1、復刻版は発売とほぼ同時にソールドアウト。

 

NIKE AIR PRESTO BEAMS “CRAZY COLORS”

ナイキ ビームズ

日本のファッションカルチャーを1970年代より牽引してきたセレクトショップ、BEAMSが創業40周年を記念してリリースしたのがナイキエアプレスト別注。スニーカーのサイズレンジをS-M-L規格に刷新したアルファプロジェクトの申し子、エアプレストは伸縮性に優れたブーティ構造のアッパーをTPU樹脂のヒールカップ及びスタビライザーでサポートしたシンプルな造形が特徴。そのアッパーやTPUパーツを左右非対称のマルチカラーで配色したBEAMS別注は、クレイジー仕様にありがちな騒々しさとは無縁の洗練された佇まいを見せる。ブランドカラーのオレンジを軸に計算し尽くした高感度なカラーパレットはBEAMSの真骨頂。

 

NEW BALANCE MTX580 “GORE-TEX” BEAMS MITA SNEAKERS

ニューバランスが1996年より日本企画のオフロードランニングモデルとして展開しているMT580をベースに、防水性を備えたゴアテックス仕様へアップデイトしたのがBEAMSとmita sneakersによるトリプルコラボレーション、MTX580である。衝撃吸収素材のアブゾーブとロールバーを搭載した安定性重視のソールユニット。デュラバックをベースにリフレクターを配置したアッパーは、ジップ開閉式のシュレッドを着脱可能なスペシャルエディション。アッパーからソールまでマットなトーナルカラーで仕上げた完成度の高さは、これまでCMT580別注の実績を積み重ねてきたmita sneakersならでは。

 

ASICS GEL-LYTE V MITA SNEAKERS “TRICO”

アシックス

アシックスタイガー名義で1993年に発表されたGEL-LYTE Vは、衝撃吸収性と耐久性を兼ね備えたGEL搭載のソールユニットにインナーブーティ構造のアッパーを載せたランニングシューズ。アシックスタイガーのコーポレートカラーであるブルーをベースにトリコロールで配色したmita sneakers別注は、2015年リリースのGEL-LYTE III”トリコ”に次ぐ第2世代ながら、シュータンを一体成形したフィッティング性能とそのスマートなフォルムに優性あり。この他、ダークローズやスーベニアジャケットなど様々なコンセプトでGEL-LYTEシリーズを別注してきたmita sneakersだが、完成度の高さではこのGEL-LYTE Vを凌ぐものなし。