すでにその一部始終をご存知かもしれません。
2005年春、ナイキSBから初のCity Pack(シティパック)シリーズとして、希少限定数のSBダンク ローを東京・ロンドン・パリ・ニューヨークの世界4都市限定で、リリースするとの発表がありました。ナイキが起用したのは、ステイプル デザインとREED Space(リードスペース)のクリエイターであるジェフ・ステイプルで、SB ダンク ローにひねりを加え、ニューヨーク名物のハトに着想を得て生まれたのが、ナイキSBダンク ロー NYCピジョンです。
ピジョンダンクは150足限定で、うち30足はナンバリングが施され、マンハッタンのローワー・イーストサイドにあるステイプルのリードスペースでのリリースが予定されていました。リリースの情報が出回ると、どうにかして一足手に入れようと、人々がステイプルの小さな店頭に大挙して押しかけました。ニューヨーク市警察が到着して群衆を追い散らした後は、その話が拡散され、SBダンク需要の高さは周知のところとなりました。
それから15年以上経った今も、SBダンクはおそらく、これまで以上にスニーカーカルチャーの頂点に君臨しています。2010年代に一瞬、ジョーダンやイージーの後塵を拝したこともありましたが、最大のトレンドというものはいつでも形を変えて戻ってくるものです。そして今日、SBダンク人気は完全に復活しています。
StockXでは、ナイキSBダンクの販売高と価格は、当社プラットフォーム開設以来の最高水準をつけています。まるで市場を席巻するSBダンクの新発売や、旧モデルのリセール価格の最高値更新が連日起こっているかのようです。ダンク回帰の理由は、一点に集約されるわけではなく、むしろ複数のバラバラの要因が積み上がった結果です。このところの上昇を理解するため、ここではSBダンク復活の数字と経緯をたどります。
2020年がナイキSBダンクの年なのは、以下の理由からです。
スニーカーカルチャーはもはやメインストリーム
スニーカーカルチャーも、ステイプルピジョンがニューヨークに大混乱を招いた2006年の頃からすると大きく進展し、当時はニッチ現象だったものが、いまや完全にメインストリームになっています。この文化的変遷の功罪の多くは、不可避だったITとSNSの発達に帰することができます。15年前にNikeTalk(ナイキトーク)などのフォーラムで盛り上がっていたようなコンテンツが、今ではInstagramの発見タブやIGTVにあふれています。新世代はスニーカーの世界、とりわけSBダンクへと毎日のように誘われ、コミュニティがハイピッチで拡大しています。
結果として、ナイキSBダンクに関心のある人の数は、いまや過去最多になっています。そして皮肉なことに、購入者にとっては残念にも、旧モデルの供給はかつてなく少なく、先細る一方なのです。ナイキはもはや、2005 ティファニー ダンクや2003 ハイネケン ダンク、2005 パリ ダンクを製造していません。そのため、デッドストックが売れるほど、その希少価値は高くなるばかりです。旧モデルへの切望は連鎖反応を引き起こし、出回っているすべてのSBダンクへの需要が高まっています。
供給減に需要増が重なったことが、StockXでのSBダンク価格の上昇につながりました。
上の線グラフは、全SBダンクのStockXにおける月間平均価格の推移です。全体として、2018年年初から2019年末にかけては微増に留まっていたのが、2020年に入ってから急上昇しています。
5月初めの値下がりを別とすれば、SBダンクのリセール価格は、このところ全体的に急上昇しています。値上がりは旧モデルの価格急伸に加えて、新発売のストレンジラブやベン&ジェリーズのコラボ品などのリセールが、突き抜けた価格帯になっていたことによるものです。今年1月には平均200ドル強だった平均リセール価格が、いまや600ドル超えと、わずか半年の間におよそ3倍伸びています。StockX史上、一つの商品カテゴリーの価格が、これほど急速に上がった例はありません。
アート作品としてのSBダンク
ちょうどこの春にもナイキSBダンクロー パリが5万1950ドルと、スニーカー販売額としてはStockX史上最高の天文学的な売値をつけました。とりわけサザビーズのようなオークションサイト以外では、シューズがこのような価格帯に達するのすら非常に珍しいことです。そのサザビーズでは最近、試合で着用されたサイン入りのジョーダン1 シカゴが、シューズとしては過去最高額の50万ドル超で売却されました。今ではSBダンクは、消費財と現代アートの交差する領域になりつつあるのが見て取れます。
ダンクロー パリは非常に点数が限られることや、その背景にある逸話に照らせば、アート作品と考えるのが妥当です。202足のみのパリ限定販売で、フランス人画家ベルナール・ビュフェの彩色キャンバスの一部を模して、一足として同じものがないよう制作されました。このような背景の逸話によって生まれる付加価値は、再生産できません。
同じく1万ドル前後でリセールに出ているSB ダンクロー フレディクルーガー に目を向ければ、ナイキがフレディの名を無許諾で使用したことに対し、ニュー・ライン・シネマが停止を求めた後、既存品がどうやって廃棄を免れたのか知ることができます。これもまたすごい逸話です。ダンクには、今日のリリースにはなかなか見られない真実味があり、圧倒的なリセール価格は購入者がそこに価値を見出していることを裏づけています。
インフルエンサーの影響力
「インフルエンサー」という言葉には食傷気味でも、カイリー・ジェンナーとそのヘルシーなスタイルの写真の影響は無視できません。カイリーが人気スニーカーについての投稿をするたび、リセール価格は跳ね上がっています。これはデータに裏打ちされています。5月にカイリーは、レアなナイキSB ダンクハイ フェリスビューラーを履いているところをInstagramに投稿しました。この激レアダンクの取引高は、それから48時間以内に過去2カ月間を合わせたより多くなりました。販売数量が上がっただけでなく、リセール価格にも影響がありました。フェリスビューラーの価格はデッドストックの供給が落ち込んでいることから急騰し、ほどなく平均700ドルから2倍近く伸びて、1100ドルに迫りました。
ここに示されているのは異常値ではなく、より大きな流れの一端です。カイリー・ジェンナーは今年、レアモデルのSBダンクを履いた写真を何度か投稿していますが、そのたびにStockXでそのスニーカーの価格と販売高が上昇しています。カイリーが2020年に履いているところを投稿したのは、SBダンクハイ MFドゥーム、SBダンクロー ホワット ザ ダンクとSBダンクロー スタッシーチェリー。これらの投稿に続く数週間で、ダンクの価格は30〜50%、販売数量は2倍〜4倍伸びています。カイリーの影響力は個別の商品レベルは言うに及ばず、カテゴリー全体に対しても突出しています。
上の図はSBダンクのなかでも、直近12ヶ月間で最も上昇幅の大きかった上位5モデルの価格の伸び率を示したものです。とりわけ上がりっぷりが目立つのは、カイリー・ジェンナーが着用したナイキSBダンクロー スタッシーチェリーです。カイリー効果に押し上げられたリセール価格の上昇率は、前年同期比で279%増と驚異的です。
2020年はSBダンクが好調に
古きよき時代を振り返りがちな上のスニーカーヘッズ世代にとっては面白くない話かもしれませんが、2020年はSBダンクのリリース史上、最良の年の一つになるかもしれません。大ヒットコラボやスケートショップ限定モデル、GRの新色、そして何よりも作り手に遊び心があります。今年リリースされたSBダンクにはどれも感動があり、ナイキが最良の品を出そうと取り組んでいるのが感じられます。そしてStockXでのリセール価格は、それがスニーカーヘッズに伝わっていることを示しています。
7月現在、2020年に発売されたSBダンクのうち、すでに4種でリセール価格が1000ドルを上回っています。4モデルはすべて、StockXで今年最も高かった10足にランクイン。SBダンクがリセール取引の数量に応じて、ここまで一挙に引き上がるのは初めてになります。ナイキSBダンクロー ベン&ジェリーズ チャンキーダンキーでも、この記念すべきリリース続きの年が裏打ちされています。StockXでの売上が、発売から3日間で1000足を超えるスニーカーのなかでも、チャンキーダンキーは史上最高の初回リセール価格をつけています。オフホワイト ジョーダン1に取って代わる、リセールの王者の誕生です。
恐ろしいのはまだ2020年も半ばで、いっそう市場を加熱させそうなSBシリーズのリリースが続々と控えていることです。ナイキSBダンクロー グレイトフルデッドベアがスケートショップとSNKRSに登場するのも、もうまもなく(隠しポケットは有効活用できること間違いなし)。新しいJパックSBダンクは、『マイケル・ジョーダン:ラストダンス』後のジョーダン熱をあおるかのようなタイミングで、イギリスの「Size?」からシカゴカラーをリリースしています。SBダンクハイ ストロベリーコフは、ようやく今秋登場する見込みで、トッド・ブラトルートがデザインしたSBダンクハイとしては今年2色めになります。これでまだ取りこぼしがあるのだとしたら、これから登場するすごいSBダンクのニュースを追うので、毎日手一杯だからに違いありません。
ナイキSBはキレのあるスニーカー取引を復活させました。これから来るリリースがSBバブルの値動きにどう影響し、いつまで好調が続くのか興味深いところです。とりあえず現時点で確かなのは、2020年がSBダンクの年として後世に知られるようになることです。